マンションデベロッパーが、自社のブランド名を冠してつくる“ブランドマンション”の真価を知る、マンションブランド特集。
今回は、住友不動産の高級賃貸マンション「ラ・トゥール(La Tour)」について「ブランド・企業の歴史」や「具体的なものづくり」にいたるまでたっぷりとお話を伺いました。
話し手
住友不動産株式会社 賃貸住宅事業部
部長 浦部さん(中央) 管理統括 小島さん(左)
聞き手
TERASS 江口亮介(右)
ルールではなく、“人”が管理する。コンシェルジュの対応力
Q>「ラ・トゥール」のコンセプトと特徴を教えてください。
A.住友不動産 浦部さん
立ち上げた2000年頃は、高級賃貸マンションというものはまだ一部外国人向けの高級マンションがある程度で、選択肢が多くありませんでした。その中で、住友不動産として新たに手掛けていく高級賃貸マンションはどうあるべきかと考えた結果、みなさんが想像するような「(豪華な)いいマンション」だけではなく、ホテルに求めるような「質の高いサービス」も一緒に提供したい、という想いから「ラ・トゥール」は始まりました。
サービスというと荷物をお預りするとかタクシーをお呼びするとか色々ありますけれども、我々の特徴は、“お客様が仰ったことに即座に対応できる”という対応力にあると考えています。
Q>即座に対応するというと…?
A.住友不動産 浦部さん
マニュアル化された質の高いサービスというのはすでに多くありますよね。ただ、実際の管理の現場ではなかなかそうはいかず、お客様から「こんなことで困った」「何かが壊れた」など、様々な突発的なご要望をいただきます。そういったお話をいただいた時に即座にどういった対応をするか?というのも、サービスの質の一つと考えています。
我々はフロントコンシェルジュと呼んでいますけれども、現場のフロントは住友不動産の社員なんですね。他社さんでは子会社だったり外注されていることが多いと思いますが、そうしてしまうと決められたことはきちんとやっていただけますけれども、マニュアルにないことを迅速に対応するというのは難しい。
管理の現場では、この対応力こそがサービスの質に大きく影響するのではないかと考えておりまして、敢えて分離はせずに現場と本社、同じ組織で管理をしております。
Q>マニュアル外の対応。例えばどんなことが起きるのでしょうか?
A.住友不動産 小島さん
「ラ・トゥール」のお客様は2割程度が外国の方ですので、外国語の通じない医療機関の受付を電話でお手伝いしたり、救急車を呼んで症状をお伝えするお手伝いをした例もあります。
台風の時も、「コンビニはどこが営業している?」というご質問があったため、近隣のコンビニに確認して「ここでしたら営業しています」というのを調べてお伝えした例もありました。そういう動きはマニュアルにはなく、状況を判断して対応するフロントが育っていっていますね。
こういった対応が常にできるというわけではありませんが、極力対応したいという姿勢をどの現場でも持っていますし、判断が難しいことがあればすぐに本部に連絡できる体制も整っています。
Q>社員の方といえど、そういう判断は難しいですよね。どうすればそこまでの動きができるようになるのでしょうか?
A.住友不動産 浦部さん
我々も教えて欲しいくらいです(笑)。
基本的にはその物件を自分の家だと思って対応しなさい、と教育しています。あるいはそのお客様を自分の家族だと思うようにと。自分の家だったら、何か壊れたら困る、汚かったら嫌だ。家族だったら、困っていたら何かしてあげたい、と行動するように。
A.住友不動産 小島さん
そうですね。自分の家だと思っているから、自分たちの資産は自分たちで守る。自分たちでよくする、という精神を教え込まれてきたし、そう訓練されて慣れている社員が多いです。
管理では、迅速に対応することが大事です。例えば、木に虫がいる、となったら2週間放置したらもっと増えます。住友不動産では、その日のうちに抜いてしまって、二日後には植え替えるくらいのスピードで対応をするので、お客様から驚かれることも多いです。
迅速な対応を実現するためには、決裁者と現場の関係の近さが重要と考えています。会社ですからそれぞれのポジションはありますが、そこを飛び越えてもよく、直接相談が来ることが多いです。重大事項で次の日になってやっと決裁者に連絡が入るということはなく、その日のうちに対応が始まる。というくらいのスピードでやっています。
A.住友不動産 浦部さん
また、一度決めたことが明日もそのまま正しいとは限らないですよね。一度決めたことを何かが起きるまでそのまま続けてしまうという保守的な考え方は、管理業界ではよくあります。ただ、それが全てではないですよね。決めたことはしっかりやるべきではあるけど、ここはこうしたほうが良いんじゃない?とか、こういう風にやるべきじゃない?という意見を言うことが大切だと思っています。
やはりお客様に近いところで判断をし続けるべきだし、そこにこそ、我々が学ばなければならないことがあると考えています。
Q>一社で現場管理まで一貫している部分を含め、管理でここまで柔軟なお話は珍しいですね。
A.住友不動産 小島さん
部長が直接現場にいってコンシェルジュと話しているので、そういう思想が現場まできちんと伝わっているのだと思います。
Q>フロントコンシェルジュのバイリンガルの割合は?
A.住友不動産 浦部さん
全物件、英語を話せる者がおります。
Q>管理業界は人材不足ですが、バイリンガルで、現場の対応力もあり、会社の方針への理解力もある。そんなに優秀な人材をどう採用しているのでしょう?
A.住友不動産 小島さん
経験はあったほうがいいですが、あまり問わずに採用しています。もともと住友不動産全体がそうですが、不動産業界にいた、サービス業界にいたというのは参考にはなりますけれども、それだからといって採用するというわけではありません。
自分で考えて、スピード感をもって対応ができる、という人物本位で採用しているので、いろんなバックボーンをもった方がいますね。
「ラ・トゥール」の特別感、プライベート、セキュリティ
Q>ものづくりの特徴について教えてください。
A.住友不動産 浦部さん
「ラ・トゥール」では、特別感や高級感はもちろんですが、同じくらいプライベート性、セキュリティは絶対に欠かしてはいけないと考えています。その中で、すべてを満足するのはどういった住まいがいいのだろうと考えてつくっています。
例えば「ラ・トゥール代官山」では、広い敷地面積を活かしてバルコニーを敷地の内側に向け、外側から室内が覗かれにくい構造にしています。加えて、土地の傾斜を活かして車をそのまま部屋に入れられる住戸をつくるなど、多様な住まいのニーズにお応えできるような企画をしています。
京都の「ラ・トゥール京都東山」では2019年のグッドデザイン賞をいただきましたけれども、日本ならではの木を使った意匠や、高級感を出しながらも街から浮いたデザインにならないようなファサードなど、外観のデザインにもこだわっています。
Q>セキュリティについてはいかがでしょうか。
A.住友不動産 浦部さん
建物構造上のセキュリティはもちろんですが、インターホンなどで外部から入居者への直接の連絡ができないようにもなっています。来客があれば必ず、まず初めにフロントを通り、来客のとり継ぎを入居者にご判断いただきます。また、フロントでそれとなくお断りもできるようにしています。
ただ、最近はウーバーイーツなどを含めた宅配が増えていますよね。宅配に関しても、直接お部屋に連絡がいかない点は同じですが、敷地周辺でのバイクの停め方など、外部の業者の指導も始めています。宅配業者やドライバーはもちろん別会社ですが、入居者にとっては駐車場所や停め方は住環境の一部であり、同じ管理の問題です。そのため、停めるときはここにしてくださいと一つ一つ指導したりと、建物外までトータルで管理しています。
Q>そのほか、入居者の方の変化に対応している例はありますか?
A.住友不動産 小島さん
外部のフィットネスに行かず、マンション内のフィットネスにトレーナーを呼ぶ方が増えてきました。「ラ・トゥール」のフィットネスの設備は、入居者のニーズを踏まえて、使ってもらえるものをよく選んでいます。ただ高級なイメージだからとメーカーを選ぶのではなく、トレンドやメンテナンスなどを含め、よりご満足いだだけるものを選んでいます。
居室内の設備に関しても、自分の家と考え、耐用年数などの目安に加えて実際に見てチェックすることで、原則壊れる前に対応するようにしています。ライフサイクルを機械的に決めてしまうほうが管理は楽ですが、やはりそこも、“人の目”で管理をしています。