森ビルが8月22日、六本木ヒルズに並ぶスケールの大規模開発「虎ノ門・麻布台プロジェクト」を発表。
構想には高さ日本一の330mのビルも含まれており、現在日本一のあべのハルカス(300m)を抜く高さになるという。
オフィスはもちろん、住宅、ホテル、インタナショナルスクールも含まれるという期待のプロジェクトの概要をチェックしてみよう。
アークヒルズ隣接地に誕生予定
新プロジェクトは、麻布通り、外苑東通り、桜田通りに囲まれた港区虎ノ門5丁目、麻布台1丁目、六本木3丁目の約8.1ヘクタールという広大な敷地の再開発事業だ。そのスケールとインパクトは六本木ヒルズに匹敵するという。
また、高さ日本一となる超高層ビルのほかにも高層ビル2棟と低層4棟を建設する予定で、全住戸数は約1400戸、約3500人の入居、年間約2500万~3000万人の来街者を見込んでいる。
平成元年から約30年もの時間をかけて推進したこのプロジェクトは、平成29年に国家戦略特区法に基づき都市計画決定され、今年8月5日に着工した。竣工は2023年3月末が予定されている。
開発地はアークヒルズに隣接、六本木ヒルズと虎ノ門ヒルズの中間に位置する。周辺は緑豊かなうえに、外国大使館、外資系企業、ホテル、文化施設、インターナショナルスクールなどが多数立地し、外国人居住者数も圧倒的に多く、国際新都心として極めて高いポテンシャルを有している。
森ビルが提唱する“ヴァーティカルガーデンシティ構想”
森ビルが超高層ビルにこだわるのは、建物の高層化こそ東京の磁力と圧倒的緑を増やすための手段だからだ。
東京の再開発において森ビルが掲げてきたのは、「空に希望を。地上に緑を。地下に喜びを。」をコンセプトとしたヴァーティカルガーデンシティ構想。
具体的には細分化された敷地を取りまとめて大きな敷地を生み出し、そこに超高層建築を建てることで、足元に緑と豊かなオープンスペースを創出するというもので、多様な都市機能が集約した、”磁力”ある都市を実現することができる。
今回の虎ノ門・麻布台プロジェクトは、平成の始まりから約30年をかけ、まさにその構想を体現したものといえるだろう。
都心開発のコンセプトは“広場”
虎ノ門・麻布台プロジェクトのコンセプトは「緑につつまれ、人と人がつながる『広場』のような街 “Modern Urban Village”」。
働く・住む・遊ぶの三機能だけでなく、さらに「集う」「憩う」「学ぶ」「楽しむ」などの人々の様々な営みがシームレスにつながり、人と自然とが調和し、人と人がつながり、刺激しあいながら創造的に生きられる新しい都市を創出する、というものだ。
圧倒的な緑に囲まれ、自然と調和した環境の中で多様な人々が集い、人間らしく生きられる新たなコミュニティの形成を目指す。
Green
建物を配置してから、空いたスペースを緑化するという、従来の手法とは逆のアプローチをとっている。まずはじめに人の流れや人が集まる場所を考え、街の中心に広場を据えて、シームレスなランドスケープを計画。その後、3棟の超高層タワーが配置された。
Wellness
プロジェクト内の医療施設を核として、スパやフィットネスクラブ、レストランやフードマーケットといった様々な施設のほか、広場、菜園なども1つのメンバーシッププログラムで結び、外部施設や医療機関とも連携する。
このプロジェクトではWELL認証(人を中心に心身ともに健康で快適な建築空間を認証する制度)が取り入れられ、人に優しいオフィスとなっている。*1
より“人”に着目し、人の様々な営みや関係性から必要な施設を逆算した都市での暮らし。となれば、住宅部分への期待も高まる。
注目のレジデンスは…?
新プロジェクトのレジデンスは、メインタワー、東棟、西棟を合わせた3棟で構成され、総戸数約1,400戸となる。
メインタワー
テーマは「理想の住宅」。
居住者専用のラウンジやスパのほか、各住戸ごとに専用のエレベーターホールを設置するなどハイグレードなサービスも提供する。
共用施設はプール、ジム、エステ、シアター、キッズルーム、飲食ラウンジなども設置され、高さ約330mのメインタワー最上部に約90戸の住宅が入る予定。
東棟
テーマは「リゾートホテルに暮らすような住環境」。
低層部にラグジュアリーホテルを併設し、ホテルと連携したサービスを利用できる。プール付きの住戸や、2層吹き抜けの解放感あふれるリビングなど、都心にいながら、ゆったりと時間が流れる暮らしを提供する。
パーティラウンジ、ゲストルームなども設置され、高さ約240mの東棟では、14階から53階に約330戸の住宅が入る予定だ。
西棟
都市のスマートライフを実現させる、充実した共用施設のシェアが特徴的。
ジム、シアター、キッズルーム、飲食ラウンジ、スタディルーム、パーティラウンジゲストルーム、BBQテラスが配置される。高さ約270mの西棟には、約170戸のサービスアパートメントを含む約970戸と3つのレジデンスの中では最も多くの住宅が入る。
森ビルが1986年のアークタワーズ(アークヒルズ)以降に供給してきた住宅戸数が約3,700 戸であることを考慮すると、一度に1,400戸という供給戸数は非常に大きな数字だ。森ビルが提供してきた中でも過去最大規模の住居となる。
また、東棟(1階~13階)には約120の客室の、日本初進出のラグジュアリーホテルを誘致する予定。
スイートルームの割合が多くなっておりラグジュアリーでありながらリゾートのようなリラックスした空間を満喫できるファミリーフレンドリーなホテルだ。東棟の低層部に位置し、バルコニー付きのゆとりある客室からは中央広場などの自然を楽しめるのも特徴だ。
充実した食体験も提供
新プロジェクトの中央広場地下の商業施設部分には、豊かな食文化を楽しめるフードマーケットも。厳選された食材や東京の豊かな食文化に触れる楽しさ、美味しく健康的なライフスタイルの提案を通じて、「世界有数の食体験」を提供する。 広く国内外から訪れる方はもちろん、港区を中心とした周辺エリアの人々も日常的に楽しめる店舗構成になる。
都心最大級のインターナショナルスクールも併設
外国人ビジネスワーカーやその家族の生活を支える生活環境の整備の一つが、教育環境の充実だ。
都心部におけるインターナショナルスクールの数はアジア主要都市と比較して決して多くない。虎ノ門・麻布台プロジェクトでは、都心にありながら豊かな環境で学ぶための学校として、都心最大級の生徒数を誇るインターナショナルスクール「THE BRITISH SCHOOL IN TOKYO」を誘致予定。創立30年の歴史を有し、英国式の教育カリキュラムを提供する同校は、50ヵ国以上の国籍の生徒が在籍する、国際色豊かな学校。豊かな自然を感じられる環境の中、国際感覚に優れた、未来を担う子どもたちを育む。
THE BRITISH SCHOOL IN TOKYOの公式ページを見ると、ピアノ、バイオリン、チェロ、サックス、ドラムなどの多様な音楽レッスン(要追加費用)や学生の両親によって運営されている学生スポーツクラブなど、スポーツやアートなどの実践から豊かな心を育む先進的な教育が語られている。
アートとの新しい関係性が街にも
森ビルはこれまで、森美術館、サントリーホール、六本木アートナイト、MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless といった文化施設を積極的に街に取り入れてきた。
MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderlessを例にとると、作品と鑑賞者との境界がないという点で従来の、美術館のような境界ゆえのアートとの関わりとは全く異なるアートとの関わりを提起した。アートでできた施設は、鑑賞者が自らの身体を使って探索しながら、他者と共に新しい体験を創り出していく、これまでにない全く新しいミュージアムとなった。
今プロジェクトではさらに、「街全体をミュージアム」とするというコンセプトのもと、延床面積約9,000m²のミュージアムやギャラリーを中心に、オフィスや住宅、ホテルのロビーや広場など、広大な街のあらゆる場所に文化・アートを展開。芸術・文化が一体となった街を創出する。これは上記のアートと人間の関わりをさらに街レベルに広げたものになる。
このような森ビルの画期的な街づくりはイメージムービーを見ると全体像が掴みやすい。レジデンス部分室内のイメージも動画内にあり、色彩豊かな近い未来の東京の暮らしかたを想像することができる。
プロジェクトに関わった国内外の超一流建築家たち
虎ノ門・麻布台プロジェクトには、独創的でユニークな超一流の建築家が揃っていることも着目すべきだ。それぞれのまちづくりにおける想いにも少し触れながら紹介していく。
PCPA(ペリ・クラーク・ペリ・アーキテクツ)/タワー外観デザイン
クアラルンプールにある2004年まで世界一の高さを誇ったペトロナスツインタワーやニューヨーク近代美術館増築、カーネギーホールタワーをデザイン。日本国内ではあべのハルカスの外観デザインやフォーシーズンズホテル京都のデザインを手がけた。
「個々の建築デザインはより良い街を実現するためにあるのだ」という哲学が森ビルと連動し、これまでも森ビルと「愛宕グリーンヒルズ」や「アークヒルズ仙石 山森タワー」などを手掛けてきた。
トーマスヘザウィック/低層部のユニークな建築とランドスケープ
2010年上海万博の英国パビリオンや、2012年にロンドン五輪の聖火台のデザインも手がけたデザイナーであり建築家。
一つ一つの花弁のような器が点火されると徐々に一つの炎に集約されるという、ロンドン五輪開会式での印象的な聖火台着火のシーンを覚えている方も多いだろう。他にもケープタウンの穀物庫を美術館に改装するなどユニークでアーティスティックな建築を手がけている。
2006年に英国の王立芸術協会より最年少で王室工業デザイナーに任命され、「現代のレオナルド・ダ・ヴィンチ」とも称されるほどの一流の才能を持つ。
今回は、ヘザウィック・スタジオが日本で初めて手掛けるプロジェクトとなる。
藤本壮介/メインタワーの商業空間デザイン
「建築は関係性を作ること」というモットーを持つ日本の新進気鋭の建築家。
外と中のあいだに着目し、街と建築の関係性をより考える建築を行なっている。奇抜でアーティスティックな作品が特徴。代表的な作品は、House NA (全面ガラス張りの高円寺の一軒家)などがある。
ジョージヤブとグレン・プッシェルバーグ/住宅インテリアデザイン
カナダの著名建築デザインチーム「ヤブ・プッシェルバーグ」の中の2 人。
ワイキキの一流デザイナーズホテル、ザモダンホノルルのデザインを担当。他にもパークハイアットNYやウォール街のティファニーのインテリアデザインも手がけている。
タイラーブリュレ/コンセプトワーク
元BBC記者であり、現在は国際情勢やビジネス、文化、デザインに関して国際的視点で網羅する雑誌情報誌MONOCLEの編集長として活躍している。
世界各都市の建築やデザイン、ファッションのトレンドをスタイリッシュな写真とともに紹介する月刊情報誌WallPaper* の創刊者でもある。
人の営みを中心に据えた国際新都心
森ビルによる発表の際、繰り返されたキーワードは“シームレス”。
人の営みを中心に、オフィスや住宅、商業施設、オープンスペースが継ぎ目なくつながる都市設計が見どころだ。
完成予定は2023年3月31日。世界に類のない、全く新しい街づくりがオリンピック後の東京にどんな波を生んでいくのか期待したい。
*1:
※ WELL Building Standard TM (WELL認証)とは…
空間のデザイン・構築・運用に「人間の健康」という視点を加え、より良い居住環境の創造を目指した評価システム。 建物の性能としてLEEDやCASBEE等で評価されてきた環境性能に加えて、建物内で暮らし、働く居住者の健康・快適性に焦点を当てた世界初の建物・室内環境評価システムであり、特に居住者の身体に関 わる評価ポイントについては、環境工学の観点のみならず医学の見地から検証が加えられている。(一般社団法人グリーンビルディングジャパンのホームページより抜粋)