本当に信じても大丈夫?元不動産営業マンに聞く「家、売ってください」チラシの正体

持ち家にお住まいなら、「あなたのお家、売ってくれませんか」「売却募集中」のようなチラシがポストに投函されていることはありませんか。
謎の多いこのチラシ、本当に信じていいのでしょうか。???
どういう背景で投函されるのか、チラシの情報を売却の手立てにして良いのか。元不動産営業マン監修のもと、解説します。

不動産会社は「とにかく売れる物件を仕入れたい」!
チラシの情報は鵜呑みにしない、が吉

家の特徴やエリアを特定して投函しているわけではありません

不動産の売買仲介には、
①売主から物件を預かって代理で販売活動をする「売り仲介
②買主の代理で購入する物件を探し、契約する「買い仲介
の2種類あります。

それぞれ売主、買主から仲介手数料をもらえるので、不動産会社は売り仲介も買い仲介も担当する、「両手仲介」と呼ばれる状態を目指しています(どちらかだけと媒介契約を結ぶ場合は「片手仲介」と呼ばれます)。
一つの取引で手数料が倍になるので、両手仲介の方が望ましいのです。

ちなみに大手仲介会社のIR(株主向け情報)を見ると、平均手数料額が物件価格の5%程度のところも多く、これはそもそも両手仲介を前提に営業していることを意味します。

売り仲介の場合は、物件情報を市場に出せば、あとは他社や買主個人が問い合わせをしてくれます。そして売れれば必ず仲介手数料が入ります
対して買い仲介は、紹介できる物件が決まらなければ、仲介手数料は入りません。
そのため不動産会社は、売り仲介を出来るだけ多く獲得したいと考えるのです。

チラシはそのための手段のひとつ。
物件あたりにかけられる広告予算は、仲介手数料の約20%が一般的です。
予算内でチラシ、CMなどあらゆる手段で売ってくれる人を募集しているのですが、チラシは低予算のため多数投函できるところがメリット。
不動産の取引は単価が高いため、数多く投函して一人でも売り仲介契約を結んでくれたらラッキー、という感覚で投函していると考えて良いでしょう。

チラシ文化が根強く残っているのは、実際にチラシを見て「売りたいです」と問い合わせてくれる人が存在するからだと言えます。

「〇〇の条件で探しています」の文言は信じない、が正解。
この家売れるかもしれない、と思わせることが真の目的

もしその条件で探している人がいても、その人に決まる確率は低い

チラシには「〇〇小学校の区域内で真剣に探しているお客様がいます」「この町内で大至急買いたいお客様がいます」など、ピンポイントの条件がされていることが多いです。
もし今の家を売りたいと思っているなら、これらの文言を見ると、ではその人に売ってもらおうかな、という気持ちになるかもしれません。

しかし、その言葉を鵜呑みにするのは危険です。
理由は2つあります。

1つ目は、不動産会社に、その条件で探している人が問い合わせてきているか確かめる手段がないことです。先ほどもお話しした通り、不動産会社はとにかく売り仲介契約を獲得したいと考えています。
そのため、「この家売れるかもしれない」と思わせるためにピンポイントな条件を書くことがあるのです。
しかし本当にその条件で探している人がいるのか確かめることはほぼ不可能です。
実際に問い合わせると、「あのお客さん、他で決まっちゃったので」と、売却価格を下げるよう指示されるケースもあります。

2つ目は、もし本当にその条件で探している人がいたとしても、そもそもその人に売れる確率が低いことです。
不動産の平均売却期間は3~6ヶ月と言われています。買主は、同じエリアや価格帯で比較検討しながら購入を進めます。条件がマッチしたからといってすぐ売れるというわけではない、ということです。
そのため、それらの文言を鵜呑みにして売り仲介契約を結ぶ、というのは危険なのです。

どうやって個人情報をゲットしている?

謄本、管理人、過去の成約事例

「最近マンションを購入して引っ越したら、前の家に今の家の売却募集チラシが投函された」という声や、逆に「今の家に前の家の売却募集チラシが投函されていた」という声も聞きます。不動産会社は一体どうやって個人情報をゲットしているのでしょうか。

情報の入手先は、主に3パターンあります。

1つ目は登記簿謄本
登記簿謄本には、その土地の持ち主の情報が記載されています。謄本を見ると、この家は誰の持ち家なのかがわかるのです。全国にある法務局の窓口やオンライン上で、誰でも取得することができます。
不動産の取引は情報戦です。不動産会社の代わりに謄本を入手し、個人情報を集めている業者も存在します。特に最近物件を購入した人はチラシが投函されやすいのですが、それは前の家を売りたいと思っている可能性がある、と不動産会社が考えるからです。

2つ目はマンションの管理人経由
不動産会社が直接マンションに聞き込みに行き、管理人にお金を支払う代わりに、最近誰がどの部屋を売った、や買った、という情報を教えてもらうケースです。
これは違法行為に当たります。しかし一部の管理会社では、水面下でこのようなやりとりが行われていることもあるのです。

3つ目は直近の成約事例
レインズ(不動産仲介会社が物件情報を確認できるシステム)を見ると、直近でどのマンションが売れたか、をチェックすることができます。この情報を元に、どの部屋が持ち家として住まれているかを把握して、投函するというケースです。

また、現在レインズ上で売りに出されている物件が居住中の場合、売り仲介契約を自分たちと結びなおしてほしい、とチラシを投函することもあります

仲介業者選びで大事なのは「早く売るためのアプローチの提案力」

査定価格はあまりあてにしない方が良い

では、売り仲介をお願いする会社を決める基準はなんでしょうか。
それは価格ではなく、「早く売るためのアプローチの提案力」です。

自分たちと契約を結んでほしいがために査定価格を高く提示する担当者がいますが、不動産は相場価格から大きく外れて取引されることは基本的にありません
そもそも査定価格も、本来はどの会社も近隣の同じ成約事例を元に同じロジックで算出するのであまり大きく差が出ないはずです。ですので、査定価格はあまり意識しなくていいでしょう。

不動産会社の力量がものを言うのは、販路や販売手法の部分です。
クリーニングや家具を入れる、など、物件を早く売るためにどのような提案をしてくれるのか。売主ひとりひとりに寄り添ったベストを一緒に探してくれる会社かどうかをチェックしてください。

「仲介会社」と「再販業者」の違いに注意!
そのチラシはどちらの会社のものですか

見落としがちな重要ポイント

売却募集のチラシ、見落としがちな落とし穴があります。
それは仲介会社と再販業者の違いです。

仲介会社は、その名の通り買いたい人と売りたい人を繋げる会社。
対して再販業者は、中古物件を自分たちで安く買い取って、リノベーションなど手を加えて売りに出す会社のこと。

このような特性から、再販業者には契約を結んだ時点で売れることが確定します。その代わり仲介会社を通じて買主に売るより、安く売ることになります

相場価格での売却を考えているなら、仲介会社との契約を結びましょう。

ベストな条件で売却するために。
信頼できるエージェントと出会おう

売主の数だけ売り方がある

では、家を売りたい時、ベストな条件で売却するにはどう動けば良いのでしょうか。
答えは「真摯に向き合ってくれる、信頼できるエージェントに依頼する」ことです。

売却理由や性格、現在居住中なのかどうか、など、売却活動はその人の事情によって左右される部分が大きいものです。
残念ながら、両手仲介をしたいがために、他社経由で買主からの問い合わせが来ても伝えてくれない不動産会社も存在します(「囲い込み」と呼ばれる行為)。

先ほどお話しした通り、大事なのはエージェントの「売却への提案力」。
エリアに強みを持つエージェント、高い売り実績を誇るエージェントなど強みはさまざまです。
見極めるためには、複数人からの提案を受け、誰となら満足できる売却活動ができそうか、比較検討することをお勧めします

この記事の監修者:井上利勉
2012年より株式会社フージャースホールディングスに入社。用地仕入・マーケティング・新規事業を経て2015年から中古再販事業を立ち上げ、戦略立案から仕入・企画・建築・販売まで幅広く実務を経験。不動産売買について幅広く精通している。現在は株式会社TERASSにてCAO(Chief Agent Officer)を勤め、エージェントへの仲介業務コンサルティングを担当。